スポーツジムのインストラクターは地獄を潜り抜けてきた俺にとってはまさに楽園のようだった。大学では全く友達が出来なかったがここには沢山の大学生達がいる。しかも先輩達も恐くない。失敗してもビデオデッキの角で殴ることなく(アメフト時代仲良い先輩がやられて頭切れてた)優しく指導してくれる。
俺はスポンジの如く知識を吸収してパーソナルトレーナー(今でいうライザップ)の資格も取ってガンガン金を稼いだ。バイトなのに月30万近く稼いだ。
インストラクターは「グループパワー」という60分間ひたすら音楽に合わせてお客さんと筋トレするプログラムを持たせてもらった。
しかし俺のスタジオはガラガラだった。
音楽に合わせてカウントをとり、重いバーベルも挙げながらお客さんを楽しませるのがインストラクターの仕事である。ハッキリ言ってめちゃくちゃしんどい。毎回一生懸命やっているがお客さんは減る一方。そこで俺はプロの契約インストラクターのプログラムに片っ端から参加し、その一挙手一投足を盗むことにした。
ある人気インストラクターはプログラムが始まる前に「今日はここを意識しましょう!」とワンポイントレクチャーを入れ、よりお客さんに効果を実感してもらえるように工夫していた。
また他の人気インストラクターは始まる時に爆音を鳴らしながら1人1人ハイタッチして会場全体を盛り上げる演出をしていた。
人気のあるインストラクターは終わった後もお客さんが取り囲み、まるでスターのように輝いていた。
俺はただただ感動してこのインストラクターという仕事に惹かれていった。そこで俺はある名案を思いついた。
「この人気インストラクターの工夫を全部盛り込んで俺のオリジナルっぽくしたらめちゃくちゃ人気でるんじゃ…」
アホな俺はすぐさま次のプログラムに全部の要素を盛り込んだ。すると参加してくれた数少ないお客さんがスタジオ終わりにこう言いに来た。
「…うるさい」
俺の名案は迷う方の〝迷案〟だった。
俺は心底凹んだ。何回も「うるさい…」ってフレーズが頭の中を駆け巡った。すると見かねた仲のよかったインストラクターの人が凄まじいアドバイスをくれた。
「〝間〟を作ったらいいんだよ」
この一言をきっかけに俺は全国にあるスポーツクラブ「ルネサンス」の集客ランキングで5位まで登りつめる。