誰とも話したくなかった。着信履歴には鬼のように先輩や監督の名前が並んでいた。いっそ死のうかな、と本気で考えた。そんな時ふと学年主任の先生の顔から浮かんだ。久しぶりに携帯を開き先生に電話し事情を説明した。
「先生、俺もう辞めたいっす」
先生はこう言った。
「大丈夫だよ、アメフト辞めても。お前はお前のままだから。」
電話越しだったが先生が笑ってくれてるように感じて俺は嗚咽で話せなくなった。心の霧が晴れて俺は元気になった。
意を決して再び親に相談した。
すると母親から意外な返事が返ってきた。
「先生から電話あったよ。ごめんね、一番理解してあげなきゃいけなかったのにね…」
そこまで言ってオカンは泣き崩れた。
言ってなかったがうちは母子家庭だ。父親は仕事もしないで小遣いの全てをパチンコに使い、2歳児を後ろに乗せてバイクで出かけるクソ野郎なので俺の物心がつく前に離婚している。2人目の父親は自営業で再婚したての頃は羽振りが良かったがすぐに倒産して家は崩壊した。兄貴は親父と喧嘩して家から出ていった。オカンからしたら唯一頼りにしていた俺がスポーツ推薦で大学に入学し、〝ここでアメフトを辞めたら何も無くなってしまうんじゃないか…〟と思ったんだろう。今ならわかる。不安だったんだ。
大学に問い合わせたら部活動を辞める正当な理由があれば辞めてもお咎めはないそうだ。
俺は父親が倒産して部活動の費用が出せなくなった事にしてようやく退部した。
ようやくひと段落…と思いきや一難去ってまた一難。今度は大学から通知がきた。通知書にはこう書いてあった。
「学費滞納しすぎです。除名にするよ?」
俺はすぐにバイトをして自分の学費を払わなければいけなくなった。それまで俺の学費は奨学金で支払われていた、しかし皆さんはご存知だろうか?奨学金を借りるには保護者の源泉徴収が必要だということを。
もちろん倒産した父親にそんなものはない。
するとこの通知がおうちにやってくるのも当然の結果である。
やばい、生きねば
まるで映画「風立ちぬ」のような使命感で俺はバイトを探し始めた。アメフトで鍛えたこの肉体を活かせ、なおかつ高収入なバイト…
そう〝スポーツジムのインストラクター〟だ!
こうして俺は全国に展開するスポーツクラブ
「ルネサンス」で働く事になった。