2年になり少しずつスタメンで出してもらう機会が増えた。そして3年になった俺は常時スタメンで出してもらえるレベルまで成長した。
いや、正確には「成長した」と勘違いしていた。
あれほど欲しかったスタメンの座も、毎試合になると当たり前になってくる。周りのメンバーも皆同い年でもうミスをして怒鳴ってくる先輩もいない。パッションだけの俺だったはずなのにいつしかこじんまりしたプレーが増えた。
そんな俺を見かねた若いコーチから目の覚めるセリフを突きつけられた。
「お前本当はスタメンじゃないから。相手チームからはウチの〝穴〟って言われてるからな」
この一言にはこたえた。その後「声出しと雑用を3年になってもまだ続けてるから」という理由だけで最初に俺を拾ってくれたコーチが温情で俺を使い続けてくれていた事実を知った。
その日から俺は必死になって練習するようになった。
若いコーチがちょくちょく俺をスタメンから外すようになった。背水の陣とはこの事だ。
「いつベンチに下げられてもおかしくない」
というプレッシャーは俺に思い切りのあるプレーをさせた。
関東大会では良いプレーが連続し、大学からスカウトされるようになった。そしてついに決勝の日、アメフトの神が俺に微笑んだ。
相手のプレーが手に取るようにわかる。止まって見える。次に何が来るかわかる。スポーツの世界では「ゾーン」と呼ばれるものかもしれない。
あり得ないくらい活躍し、その日のMVPに輝いた。
トロフィーを貰った時振り返ると俺を使い続けてくれたコーチが泣いていた。俺も涙が止まらなかった。
スタンドに頭を下げると学年のほとんどの生徒が応援に来てくれていた。実はウチのアメフト部は毎回予選敗退の弱小校で、関東大会決勝は設立して初めての快挙だった。そこで鬼の学年主任が同学年の生徒に「受験より大事なものがある」と声をかけて応援に来させていた。
スタンドからは俺の名前のコールが湧き上がった。
職員会議で俺を辞めさせろと言っていた先生達も声を張り上げて名前を呼んでいる。
涙で景色が歪んで見えた。
「ありがとうございました!ありがとうございました!…」
何度もスタンドに頭を下げた。
授業妨害をし、万引きをし、星の数ほど赤点を取り、毎年親に頭を下げさせていたクズの名前を
先生も生徒も涙目になりながらずっとコールしてくれた。
間違いなく人生で最高の瞬間だった。