才能も無く、失敗ばかり。先輩方に「辞めちまえ!」と言われ続けたおかげでリアルに毎日「辞めたい」と500回くらい思っていた。
そんなある日、転機が訪れた。
ディフェンスに転向したのだ。アメフトを知らない人のために説明すると、アメフトはオフェンスが先に作戦通りプレーを始める、ディフェンスはいつも後手に回りボール持ってる奴をタックルできたらプレーが終わる。オフェンスは作戦通り遂行する「頭のキレる仕事人」気質の人、ディフェンスは逆に「嗅覚が鋭く勘で動く野生児」タイプが多い。
つまりだ
頭も悪く作戦を覚えられない俺をディフェンスのコーチが拾ってくれたのだ。このポジションが俺には向いていた。足りない分はパッションで補う、このポジションで初めてスタメンを取りたいと思った。そんなある日監督があるセリフをメンバーに告げる。
「練習中の声出しが足りない!声が出てない奴はどんなに上手くてもスタメンで出さないからな!!」と
そこで俺は閃いた。
つまり〝声をめちゃくちゃ出せばスタメンで出してくれる〟って事か!と
皆さんも既にお気づきだと思うが、そんな事は一言も言ってない。ただアホな俺はその日から尋常じゃなく声を出しまくった。
幸い俺には授業妨害で鍛えた強靭な喉があった。
練習中にバカでかい俺の声が鳴り響く。すると自然にコーチや監督が俺を見てしまう。今までは見過ごされていたであろう稀に良いプレーがあると褒めてくれるようになった。「辞めちまえ!」と言っていた先輩方が次第に「頑張ってんな」と言うようになった。
〝声出し作戦〟が成功し味をしめた俺は次なる作戦に出た。
それは〝雑用やりまくる作戦〟だ。
毎日最後までグランドに残り整備した。試合中のベンチでは先輩にすぐさま水を出し、朝練の準備は誰よりも早く来てやった。この声出し作戦と雑用やりまくる作戦をやってると次第に周りの目が変わって来た。相変わらずプレーはミスばかり、でもコーチからは「なんかアイツ頑張ってるから一回くらい試合出してあげたい」といい意味で同情してくれるようになった。
ある公式戦でいつものようにベンチを温めてまくっているとコーチから声をかけられる。
「おい、準備しとけ」
身体が震えた。初めての公式戦は頭が真っ白になった。秒速で毎プレーが終わり、気づいたら俺はミスを連発してすぐベンチに下げられた。
でも俺は嬉しかった。
何もできなかったけど初めて自分が認められた気がした。
そんな俺が、3年生最後の関東大会。
決勝の大舞台でMVPを取る。